秋田の「郷土料理 味治」(みはる)で「特大子持ちハタハタ寿し」(2600円〜)を食べた.大将によると,近年はハタハタが獲れなくなり,特に大きな子持ちのハタハタは少なく,獲れても焼いたりすることが多くて,ハタハタ寿しを出す店は少なくなったとのことだった.今回いただいた写真の「特大子持ちハタハタ寿し」くらいの立派なものは,ほとんど食べられなくなったらしい.
魚を発酵させたものなので,滋賀県の鮒寿司(ふなずし)を連想して,匂いがきついのではないかと思っていたが,まったくそんなことはなく,とても美味しかった.自分だけなら注文していなかっただろうから,お店に連れて行ってくれた友人とそのお父さんに猛烈に感謝している.
そんな「特大子持ちハタハタ寿し」が食べられなくなりつつあるというのが気になり,どうなっているのか調べてみた.それをメモしておく.

ハタハタ寿しの作り方
ハタハタ寿しは,握り寿司ではなく,魚を米飯・米麹などと漬ける「飯寿し」だ.典型的な工程は以下のとおり.
- ハタハタの頭・えら・内臓などを取り除き,塩を使ってぬめりを落とす.
- 冷水に数日さらし,血抜きする.秋田ではこの血を赤水や赤つゆと呼ぶらしい.
- 切り身にする場合は2~3等分し,塩と酢で下漬けする.
- 炊いた米を冷まし,米麹を混ぜて,すし飯(麹飯)をつくる.
- 桶に笹を敷き,麹飯,ハタハタ,ニンジン,フノリ,ユズ,ショウガ,唐辛子などを重ねる.
- 落とし蓋と重石を載せ,低温の場所で概ね2~3週間,製法によっては1か月以上熟成させる.
農林水産省掲載の一例では,ハタハタ10kgに炊いた米1.5kg,麹400gを使用し,下漬け後に約3週間発酵させている.ただし,配合,下漬け期間,酢や砂糖の使用,熟成期間は,地域・家庭ごとに相当違うらしい.(農林水産省「ハタハタ寿し」,秋田県教育委員会『秋田県の郷土食』調査報告書)
ハタハタ寿しには,比較的大きな魚を一口大に切って漬ける切りずし・切り漬けと,魚の姿を保って漬けるまるずし・一匹ずしがある.なお,子持ちのハタハタの場合,漬ける前に切るとブリコが流れ出すため,一匹のまま漬けるまるずしにするようだ.
味治の「特大子持ちハタハタ寿し」は,ブリコを保ったまま漬けた「子持ちの一匹ずし」を食べやすく切って提供している.
ハタハタ寿しの歴史
ハタハタ寿しの発祥年や発祥地は定かではないが,江戸初期には出羽(現在の山形県と秋田県)の名物として知られていたようだ.
正保元年(1645年)の俳諧論書『毛吹草』に「ハタゝ鮨」が登場する.また,元禄期(1688~1704年)の『日本諸国名物尽』に雷の鳴る時に獲れるハタハタを使った出羽の「鮓」が記されている.このことから,少なくとも17世紀には,ハタハタ寿しが地域外にも知られる名物だったことがわかる.(秋田県教育委員会『秋田県の郷土食』)
ハタハタ寿しは,初冬にまとまって獲れるハタハタを冬のあいだ保存しておくために発達し,沿岸部だけでなく内陸部を含む秋田県全域に普及した.正月や年取りの晩,ナマハゲの膳,船魂祭などに供され,神棚へ供える家庭もあった.また,行事食にはかつて頭付きの一匹ずしが使われていたが,現在は頭を除いたまるずしが多いとされる.
歴史的に,ハタハタ寿しの主原料は,他の料理に使いにくい,ブリコを持たない小型魚だった.
ハタハタ漁の現状と推移
以下は原則として「9月から翌年6月」の漁期単位における,秋田県のハタハタ漁獲量である.
| 漁期 | 漁獲量 |
|---|---|
| 1963~1975年頃 | 暦年で毎年1万トン超 |
| 1991年 | 暦年約70トン |
| 1992年9月~1995年9月 | 全面禁漁 |
| 1995年 | 143トン |
| 2004年 | 3,055トン |
| 2008年 | 2,901トン |
| 2013年 | 1,522トン |
| 2016年 | 845トン |
| 2019年 | 775トン |
| 2020年 | 443トン |
| 2021年 | 304トン |
| 2022年 | 176トン |
| 2023年 | 111トン |
| 2024年 | 17トン |
| 2025年 | 約5.9トン※ |
※ 2026年4月28日公表値
秋田県のハタハタ漁は1990年頃に危機的状態に陥っている.1966年に2万122トンあった漁獲量が,1991年には約70トンまで減少した.異常な減小だ.これを受けて,県の水産試験研究機関による資源回復シミュレーションと漁業者間の協議が行われ,1992年9月から3年間,全面禁漁とすることで合意した.
その後,2004年には3,055トンまで回復した.しかし,その後の漁獲量は減り続けており,2025年漁期には約5.9トンまで落ち込んだ.(秋田県水産振興センター「令和7年漁期の秋田県ハタハタ漁獲状況」)
2025年漁期の内訳は,沖合約5.8トンに対して,沿岸は118.2kgしかない.前年の沿岸は2,389.7kgであり,ほとんど獲れなくなっている.沿岸で冬に獲れるのは,産卵のため接岸した「季節ハタハタ」である.
この数字から,子持ち(ブリコを持つ)ハタハタの入手が極めて困難になっていることがわかる.ハタハタは絶滅しかけている.
もちろん,秋田県だけで獲れなくなっているわけではない.日本海北部5県の漁獲量は2025年速報値で計16.2トンであり,前年40トンから急激に減少した.水産研究・教育機構の最新評価でも,2024年の日本海北部系群の漁獲量は39トン,資源水準は「低位」,動向は「減少」とされている.(水産研究・教育機構「令和7年度ハタハタ日本海北部系群資源評価」)
資源管理として,1992~95年の全面禁漁に加え,15cm未満の水揚げ禁止,網目の拡大,操業日数・区域の制限,卵の採捕禁止,種苗放流,産卵藻場造成などが行われてきた.さらに,2025年漁期には,沖合ではハタハタを狙わず他魚種を対象とし,沿岸ではまず試験操業で資源状況を確認する方針が採られた.(秋田県漁業協同組合「ハタハタについて」、秋田県「令和7年漁期の資源管理・対策」)
このような対策は打たれているものの,日本の人口のように先行きは暗い.
このままではハタハタ寿しを食べられなくなりそうだ.しかし,だからと言って,「将来食べられなくなるから今食べておこう」と考えて実行する典型的日本人になってはいけない.
「特大子持ち」はどれほど特別か?
ハタハタは雌の方が大きく,雌の体長は1歳15.5cm,2歳18.0cm,3歳20.5cm,4歳23.0cmくらいのようだ.雌は2歳から成熟し,ブリコを持つ.
ブリコ(卵)は小さくて,とても硬かった.調理法に依るのかわからないが,数の子や鱈子とは全然違う.
現在は接岸して産卵するハタハタが極端に少なくなっている.このため,味治でいただいた「特大子持ちハタハタ寿し」は大変貴重なものだと言える.
© 2026 Manabu KANO.
コメント