秋田に来た機会を逃してはならない.そう思って,今年3つめの蒸溜所見学で遊佐蒸溜所へ.山形の焼酎メーカーである金龍が手掛けるウイスキー蒸溜所だ.
京都から行くことを思えば,秋田からの方がはるかに近いのだが,それでも猛烈に遠かった.まあ,小諸蒸溜所も遠かったが,遊佐はバスも何もない.

朝5時半に起きて温泉に浸かり,6時過ぎにホテルをチェックアウトして,荷物を持ったまま朝食会場にて10分ほどで秋田らしい朝食(きりたんぽのだまこ鍋とか稲庭うどんとか)を食べて,6時半に秋田駅で超大型秋田犬に出迎えてもらう.赤と青のなまはげにも.
羽越本線・普通酒田行で遊佐駅を目指す.2両編成で,座席は概ね埋まっていた.立ち客はいない.


ひたすら鉄道の旅だ.まあ,前半はほとんど寝ていたけれども.
ときどき,車窓から日本海が見える.どんよりした曇り空,激しい波,ザ・日本海だ.
そして,1時間と55分が経過したところで,ついに遊佐駅に到着した.
秋田駅ではICOCAで入場したが,遊佐駅では使えない.立派な駅で無人駅でもないのだが,使えない.クレジットカードも使えない.現金のみだ.さらに,ICOCAの処理も遊佐駅ではできないとのことで,秋田駅に戻ってから処理してもらうことになった.
遊佐は,とにかく鳥海山推しだ.看板もポスターも鳥海山だ.


遊佐駅からゆっくり歩いて25分ほどで遊佐蒸溜所に到着した.鳥海山の山頂は雲の中だ.
9時過ぎ.
蒸溜所は稼働しているものの,見学は10時から,その受付は9:45からだ.早すぎる.しかし,電車がこれしかないのだから仕方ない.一応,事務所の方に「見学に来ました」と伝える.準備中のため,受付開始まで待っていて下さいとのことで,蒸溜所のまわりを散歩して,それから敷地内の日陰でパソコン作業をしていた.
しばらくすると,蒸溜所の方が「準備ができましたのでどうぞ」と声を掛けてくださった.まだ受付開始時間にはなっていなかったが,山形にしてはとても暑い日で,不憫に思われたのだろう.
遊佐蒸溜所は2018年創業.今年2026年で,ウイスキーの熟成は8年目に入っている.


2階の部屋に案内される.プロジェクターとスクリーンが用意されている.それに,テイスティングセットも.6種類ある.楽しみだ.
見学ツアーは午前と午後の2回.各回の定員は6名.今回の参加者は2グループ4名だ.
まず,蒸溜所の紹介ビデオを見る.音楽のみで,四季折々の鳥海山の美しさが際立っていた.
ビデオが終わると,いよいよ製造工程の見学だ.麦芽貯蔵→糖化→発酵→蒸留→樽詰め→熟成→マリッジ・瓶詰め,の順で見学する.
遊佐蒸溜所で使用しているのはスコットランド産の麦芽だ.小諸蒸溜所もそうだが,国産大麦は生産量が少なく価格も高い.このため,麦芽は輸入している蒸溜所が多い.ほとんどがノンピート麦芽(ピートで燻していないので煙たくない麦芽)で,年に1度くらいのみ25ppmのミドルピーテッド麦芽を使うとのことだ.
今は操業停止中(メンテナンス中)で,麦芽を貯蔵する容器は空っぽだった.まあ,あってなくても装置の見た目は変わらない.それでも,麦芽と小石を振動で分離する装置が置いてあり,この装置は初めて見た気がするので,興味深かった.


糖化槽(マッシュタン:mash tun)は一基,発酵槽(ウォッシュバック:washback)は5基あった.発酵槽はすべて木製で,ステンレス製は使用していない.
発酵槽もメンテナンス中で空っぽだ.写真の発酵槽には高圧水洗浄の道具が置かれていた.蒸溜所見学で空の発酵槽を見る機会は少ないので,これはこれでとても良かった.


単式蒸溜器(ポットスチル)は2基.手前のストレート型が初留器で,奥のバルジ型が再留器だ.途中で膨らんでいるのが,バルジだ.一般に,ストレート型を用いると重厚な酒質に,バルジ型を用いると還流が増えて重たい成分が残るため軽やかな酒質になりやすいとされる.この組合せに蒸溜所の狙いや個性が現れる.ラインアームが長いのが遊佐蒸溜所のポットスチルの特徴だと説明してもらった.
遊佐蒸溜所は小さな蒸溜所で,製造に関わっている従業員は8名らしい.ミドルカットを担当できるのは,そのうち,定められた試験などを突破した2名とのことだ.


蒸留されたばかりの無色透明なニューメイクはタンクに貯蔵された後,樽に移される.このとき,樽の重量を測りながら,ガソリンを注入する機械と同じような装置で,樽を満たしていく.
倉庫のもう一方には,マリッジ用のタンクが置かれていた.これらのタンクでは,複数の樽の原酒が混ぜられ,一定期間休ませて味や香りをなじませる.


遊佐蒸溜所が用いる主な樽はバーボン樽で,それ以外に,水楢(ミズナラ)樽,シェリー樽,ワイン樽などがある.
バーボンはアメリカのウイスキーだ.右側の写真の薄汚れたような樽がバーボン樽だ.
水楢は,日本や朝鮮半島に生息する広葉樹で,ジャパニーズウイスキーの熟成に使用され,白檀や伽羅のような香木の香りをウイスキーにもたらすことから,今では世界的に人気を博している.
手前の2019年の樽が水楢だ.鏡板の下の方が黒くなっている.これは中の原酒が漏れた跡だが,水楢樽は他の樽に比べて,液漏れしやすいそうだ.木質がかなり違うらしい.
樽を見渡すと,鏡板が青色の樽が無茶苦茶目立っている.あまりに気になったので,あの青色には意味があるのかと聞いてみた.すると,意味は大ありで,その樽の使用が2回目であることを示しているとの回答だった.3回目,4回目で色が変わり,4回目がほぼ限界で,5回使うことはないようだった.
この熟成庫は蒸溜所の敷地内にあるが,同じ大きさの熟成庫が少し離れた鳥海山の麓にあるとのことだ.


充実した製造工程見学を終えて,最初の部屋へ.
いよいよテイスティングだ.以下の6種類を,この順でいただいた.
YUZA Fairy in Summer(絶賛販売中)
YUZA Distillery exclusive(蒸溜所限定)
シェリー樽原酒
ミズナラ樽原酒
ピーテッド原酒
今秋発売予定商品(ブレンディッド)
最初にYUZA Fairy in Summerを,次にYUZA Distillery exclusiveを飲んだところ,Distillery exclusiveの方がアルコール度数が高いのに,刺激が少なく,まろやかに感じた.案内役の方にそれを伝えると,「実は,最初のYUZA Fairy in Summerと最後の今秋発売予定商品を除いて,少し加水しているんです」とのことだった.
なるほど.
すべて20mlだが,最初と最後を除く4種類については,原酒15mlに5mlの水を加えているとのことだ.口当たりがまろやかなのはそれでだ.
遊佐蒸溜所内でも色々と議論はあるようだ.加水していない原酒を飲みたいという見学者もいるので,原酒をそのまま出すのがいいという意見があれば,原酒は50%台後半から60%のアルコール度数のため,慣れた人でないと飲みにくいだろうから加水するのがいいという意見もある.どちらが良いのかはわからないが,いつもストレートで飲みまくっている私は「加水しない原酒がいいな」と思う.
個人的に(何度も書いているが)甘いウイスキーが好きなので,シェリー樽原酒が気に入った.
ミズナラは正直よくわからない.白檀や伽羅のような香木の香りというのがいまいちわからない.シーバスリーガルの水楢18年などが自宅にあるが,よくわからない.臭覚&味覚がポンコツなのだろう.致命的だ.
ピーテッド原酒は,25ppmのミドルピーテッド麦芽を原料とした原酒で,かなりスモーキーだ.癖が強い.私はオクトモア(アイラバーレイは200ppmを超える)が好きだし,同じくアイラ島のアードベックも好きだが,遊佐の原酒はノンピートが美味しいと思う.


最後の今秋発売予定商品(ブレンディッド)は,グレーン由来のまろやかな味で美味しかった.遊佐蒸溜所ではグレーンウイスキーは製造していないので,これは他から調達している.2026年10月1日発売だと後で知った.
用意していただいた水は「遊佐のみなもと」.
私以外の参加者は,残ったウイスキーを小瓶(1個100円で販売している)に詰めていたが,私はすべて飲みきった.普段から鍛えているので,当然だろう.


ところで,今回の見学を担当してくださったのは,樽貯蔵庫担当の方で,先週土曜日のウイスキーメッセ京都にも来られていたそうだ.VIP参加したので,ニアミスしている.

試飲を終えて,販売されているボトルを確認する.
試飲したYUZA Fairy in Summer(薄青色)の他に,YUZA Spring in Japan 2024(ピンク色)がある.そして,YUZA 2023,YUZA 2024,YUZA 2025,YUZA 2026と続く.これらは定番商品の位置づけだが,遊佐が新興蒸溜所であるだけに,毎年1年ずつ熟成年数が上がっていく.つまり,香りも味も違う.
むむむ.YUZA 2023,YUZA 2024,YUZA 2025,YUZA 2026しかない.自宅にあるYUZA 2022がない.貴重なボトルになったということか.
3秒ほど悩んだ末に,シェリー樽原酒主体のYUZA Spring in Japan 2024,YUZA 2022と飲み比べるために最新のYUZA 2026,蒸溜所限定のYUZA Distillery exclusiveのミニボトル,そして遊佐蒸溜所のロゴが入ったグラスを購入した.


秋田駅から移動だけで往復5時間という遊佐蒸溜所見学だったが,大満足した.対応してくださった遊佐蒸溜所の皆さんには大いに感謝するばかりだ.ありがとうございました!
最後に,試飲しながら教えてもらったことをメモしておこう.
どのようなウイスキーを造るかを決めるのは,社長の権限らしい.遊佐蒸溜所のマスターブレンダーは社長だ.それでも,70歳を超えておられるので,後継者の育成は必須だ.それに抜擢されたのが,新入社員の女性だという.重圧に潰されずに頑張って欲しい.
商業化を突き詰めた山崎蒸溜所などとは異なる魅力が遊佐蒸溜所などクラフト蒸溜所にはある.個性を磨いて,美味しいウイスキーを世に出し続けてほしい.

© 2026 Manabu KANO.

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