女性の社会進出を促す施策が打たれてきた効果が,まだ十分とは言えないかもしれないが,現れてきている.アメリカでは,大学進学率は女性の方が高くなり,女性の賃金は上昇している.その一方で,男性の学業成績は振るわず,男性の賃金は下がり続けている.しかし,政府をはじめとして誰も男性の苦境を救おうとはしない.
著者のリチャード・V・リーヴスは,ブルッキングス研究所の経済研究シニアフェローで,ポリティコ誌の米国の思想家トップ50に選出されたこともある.
本書「なぜ男は救われないのか」では,米国現代社会で男の子・男性,とりわけ低学歴・低所得層の男性が直面する困難が,教育・仕事・家庭の三つの側面から論じられている.男性は困っているんだ!と声を上げると,ブチ切れるフェミニストがいるかもしれない.しかし,当然ながら著者は,女性の社会進出そのものを問題視しているのではない.女性の地位向上を支持したうえで,社会構造の急速な変化に男性側の制度や役割が適応できていないことが問題であると指摘している.
教育,特に初等教育においては,男子が女子に明らかに遅れをとっている.成績不良だったり,落第したりするのは,女子よりも男子だ.これは男子の成熟が遅いことによる.
労働市場では,製造業などでの従来の「男性の仕事」が縮小する一方で,成長する医療・教育・管理・識字/ケア関連職(Health, Education, Administration, Literacy: HEAL)への男性進出が進んでいない.結果的に,男性の賃金は下がり続けている.
家庭では,共働きが普通になり,稼ぎ手としての役割が弱まるなかで,父親としての役割が曖昧になっている.
これらの男性が抱える問題を指摘した上で,著者は,「女性対男性」というゼロサムの対立に持ち込むのではなく,女性への支援のさらに進めると同時に,困難を抱える男性を積極的に支援すべきであり,これらは両立できると説く.
そのための施策として,著者はなかなか過激な提案をしている.
1)男子の就学開始を1年遅らせる(redshirting)
男子は平均的に女子より脳,特に自己制御や計画性に関係する領域の成熟が遅いことから,男子が女子より1年遅く学校に入ることを提案している.実際,アメリカでは,富裕な家庭ほど,子供の入学を1学年遅らせる傾向があるらしい.加えて,1年遅れて入学した児童の予後は良いというエビデンスがある.
2)男性教員を増やす
アメリカでは,圧倒的に教員の女性比率が高く,男性教員がほとんどいない学校すらある.これでは,男子が教員になろうとも,なれるとも思わない.小中高校で男性のロールモデルを増やし,男子が教育との結びつきを持ちやすくするため,男性教員の採用を積極的に進めるべきだと提案している.なお,同性の教員から教えられる生徒の成績が良いというエビデンスがある.
3)職業教育・技術教育を大幅に拡充する
「大学進学=成功」という旧態依然とした教育モデルではなく,職業高校や技術教育,実務につながる進路を充実させることを提案している.実際,職業訓練や技術教育を受けた人達の方が,一部のエリートを除く大学進学者よりも稼げるというデータもある.
4)男性をHEAL職へ誘導する
成長が見込まれるHEAL(Health, Education, Administration, Literacy)分野に男性が進出できるよう,奨学金や採用面で積極的な支援を行うことを提案している.女性のSTEM進出を促してきたのと同様に,男性のHEAL進出を政策的に支援すべきだとの主張である.
5)父親の役割を再構築する
父親を単なる「稼ぎ手(歩くATM)」と位置づけるのではなく,養育者として重要な存在であると捉え直すことを提案している.育児において,母親が果たす役割と父親が果たす役割は同一ではないことを踏まえて,父親向けの育児休業制度などを整備し,また,離婚・別居後も父親が子供との関係を維持できるようにすることが必要だとの主張である.
6)新しい「男性らしさ」を構築する
保守派が望むように伝統的な男性優位社会に戻るのではなく,過激なフェミニストのように「男性性=有害」とみなすのでもなく,責任,他者への貢献,父親の役割などを含む「prosocial masculinity(向社会的な男性性)」を育てるべきだと提案している.
著者は言葉を選びつつ,本書内で繰り返し述べているが,女性の地位向上が行き過ぎたわけではなく,さらなる女性支援が必要であるという立場だ.それと同時に,女性の社会的役割の変化に比べて,男性の教育・職業・家庭における新しい役割の構築が遅れている問題を解決していくために,男性への支援も必要であるとしている.つまり,ジェンダー平等政策を「男性が不利な領域にも適用する」ことを著者は提案している.
米国と日本では事情が大きく異なるだろうが,男女平等で何を目指すのか,どのように目指すのか,はもっと議論されていいように思う.(女性限定公募などを眺めつつ…)
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