この話は学生に限らなくて,高校以下の生徒でも,働いている人でも,誰にでもあてはまる.
AI系ツールがとても有能で,便利で,作業効率を劇的に向上させてくれることは確かだ.外国語でメールを書くときも,論文を書くときも,旅行先でどこに行くかを決めるときも,とにかく役に立つ.だから,私は日常的に使っている.
AIは嘘を吐くと非難されてきた.今でも嘘を吐く.いや,意図的ではないのだとしたら,間違ったことを回答するという表現が適切かもしれない.確かに,これは問題で,利用者にはリテラシーが要求される.AIの間違いを見抜くためには,利用者が間違いを見抜けるくらいの知識や能力を持っていなければならない.
だから,私は,AI系ツールは有能な人の能力をさらに強化する武器だが,能力の低い人が使いこなすのは難しいと思っている.まさに,諸刃の剣ではないかと.
さらに言えば,
そのことを学生に自覚してもらうために,そして注意を喚起するために,次の宿題を出した.
論文”Attention Is All You Need”の内容を把握して,Attentionとは何か,どういう効能があるかを明確にしつつ,論文の内容を日本語で10枚程度のスライドにまとめよ.工学系の大学生が見て,論文の内容を理解できるようなスライドにすること.すべてのスライドが文字だけは認めない.効果的に図,グラフ,表などを使うこと.PDFファイルにして提出せよ.もちろんAIツールを使ってよい.
学部生を対象とした講義での宿題だ.それまでの講義で,自然言語処理について,トークン化,分散表現,Word2Vec,RNN,LSTM,Seq2Seqなどは一通り説明して,ChatGPTのGPTは”Generative Pre-trained Transformer”であり,そこではAttentionが使われている,と伝えた上での宿題だ.
宿題の文面からは,Attentionについて勉強してもらうことを意図しているように見えるかもしれない.しかし,そうではない.この宿題で,まともに勉強する学生は少数派だろう.多くの学生は,指定された論文をAIに放り込んでスライドを出力させてお終いだろう.これが私の仮説だ.
この宿題の意図は,「AI系ツールはその使用者から能力を高める機会を奪う」ことを学生に体感してもらうことだ.
そのために,宿題提出後の講義で,事前予告なしに,出席している学生に,提出したスライドを用いて”Attention Is All You Need”の内容を説明してもらった.
きちんと説明できる学生もいるが,そうではない学生が圧倒的に多い.Notebook LMに論文を投げ込んでスライドを生成しただけだとしたら,自分で説明できるはずがない.
しかし,何かを勉強して身に付けようとするとき,自分の言葉で解説を書くこと,そして人に教えることは強力な方法だ.昔から繰り返し,書いたり言ったりしている通りだ.


ところが,AI系ツールは,情け容赦なく,その成長機会を奪い尽くす.
自分で「工学系の大学生が見て,論文の内容を理解できるようなスライド」を作成したにもかかわらず,自分の言葉で説明できないし,中身を理解していないので,質問されても答えられない.
これがAI系ツールを使う人の現実だ.学生に限らない.この講義の受講生のレベルが低いわけでもない.
自問すべきだろう.
AI系ツールを使える環境にいながら,自分の能力を高めるためには,一体どうすればいいのか.
本日の講義では,この話をした.
© 2026 Manabu KANO.

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